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トレーニングの基本原則から考える「走り込み」の非効率性

どうも、JECです。

普段からよく「罰走」や「走り込み」について批判的なツイートをしていますが、今回の記事では「なぜ走り込みが非効率なのか」についてトレーニング科学の観点から考えていきます。

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そもそも、トレーニングの定義・目的って?

サッカーの競技性や走り込み云々の前に、アスリートが行うトレーニングの定義と目的について簡単に整理しましょう。いろいろな言われ方がありますが本記事におけるトレーニングの定義(スポーツにおいて)は、「適切な過負荷にて運動を行い、運動遂行能力を向上させること」と、します。(ここでいう適切な負荷は、トレーニングの量、もしくはトレーニングの質のどちらかになります。)そして、アスリートにとってのトレーニングの目的は、「競技者として記録の向上を目指し、勝利を追求すること」と、します。

要は、不適切な過負荷で運動遂行能力が向上しないものはトレーニングとは言えず、その内容を見直す必要があるという事です。

では、適切な過負荷について考えます。単純な負荷はトレーニングの量とトレーニングの質に分けることが出来ます。
レーニングの質を決定するのは、

その競技にあったトレーニングであるか
目的にあったトレーニングであるか
個人の特性にあったトレーニングであるか

という点で評価されます。この三点については後ほど詳しく扱います。

レーニングの量については、「強度×時間×頻度」で定義されます。つまり、どれか一つが突出していても、この三要素内でバランスが取れている分には適切なトレーニング量であると言えるのです逆にこれらすべての要素を同時に高めてしまうと、それはトレーニングではなく「オーバートレーニング」になってしまいます。

レーニング量の三要素について

強度について

主に、外的なものと内的なものに分かれます。外的なものとしては質量や、高さ、衝撃力、発揮されるパワーなどで推測され、内的なものは心拍数や血中乳酸濃度、RPEなどをもとに推測されます。(この辺についてはまた別の記事で詳しく書くと思います。)

時間について

各トレーニングにおける休息を含めたトータルの時間です。

頻度について

週、月、年に何回トレーニングが行われるかです。
筋力トレーニングだと週2~3が良いなんて言われるのもこの頻度という概念に基づいたものですね。


では、過負荷とは何でしょうか。
レーニングの基本原則にもある「過負荷の原理」によると、

レーニングの負荷は個人にとってややきついものでないとその効果は得られない、また、トレーニングの効果に応じて負荷は徐々に高める必要がある

つまり、ややきつくてトレーニング効果が得られる負荷のことを、「過負荷」というのです。
この原理は筋力トレーニングが頻繁に例として挙げられますね。いつまでも同じ重さのバーベルでベンチプレスをしていても筋肉は一向に肥大化しません。50㎏が10回上がったなら、55㎏でセットを組むようにして、筋肉に適切な負荷を与えなければならない。という訳です

レーニングの定義、目的、過負荷の原理についておさらいしたところで、
次はサッカーの競技性について理解を深め、サッカーにとって適切なトレーニングを考えてみましょう。

サッカーの競技性について


サッカーはかなり複雑性の高い競技で、なおかつその運動形態は局面ごとに大きく異なると言えます。
11対11+審判と1つのボールによって進行されるゲームは、常に速いスピードで状況が変化し、ある時はスプリント、ある時は急激な方向転換、停止、ジャンプを行う必要があり、何か一つの能力を引き上げてもパフォーマンスが向上するとは言えません。
また、状況認知と判断が非常に重要で、注意集中を広い領域から狭い領域にかけて連続的に切り替える必要があり、これは身体的な活動の中でも脳がつかさどる部分でもあります。

と、なんだか固い言葉を並べてしまいましたが、要はサッカーという競技は複雑性が高く、何か一つのことをやっても試合で成果を上げることはできない、つまりトレーニング内容をより慎重に考える必要があるという事です。(当たり前ですが)


それでは「走り込み」について考えましょう


では走りこむことで得られる体系的なメリットを挙げてみます。(ここでいう走り込みは、比較的強度の高い典型的な有酸素性トレーニングです。)
まず、間違いなく有酸素性能力は向上するでしょう。要は、長い距離を走れるようになります。具体的に言えば、毛細血管の数が増えて、筋線維内への酸素やエネルギー供給が促進されます。また、ミトコンドリアの酸化能力が向上し、グリコーゲン分解の抑制、脂肪酸化の割合が増加します。

とまあ、走り込みによる体系的な持久力の向上は間違いありません。
しかし、前述したようなサッカーの競技性、およびトレーニングの定義、目的と合わせて考えてみたら、どうでしょうか。


サッカーの競技性を踏まえて「走り込み」を考えると


サッカーは一試合当たり90分間で13㎞程度走る競技です。そう考えると、有酸素性能力の向上はパフォーマンスの向上に直結していそうにも思えますが、実際試合の重要な局面、およびオンプレーの動作を考えてみましょう。まず、多いのが10ⅿ以内で行われるスプリント動作、そしてフィニッシュワークやドリブルにおける激しい方向転換、止まる動作、ジャンプ動作どれも有酸素性能力による活動ではありませんね(厳密にはすべてのエネルギー機構が常に活性化してはいますが・・・)

前述したのは、すべて体系的な能力についてです。しかし、サッカーは「ボールを使う競技です」。
極端な話ボールをうまく扱える選手は、局面を打開するスキルがあります。スペースや敵味方の位置を把握し、即座に判断できる選手はサッカーが上手い選手だと言えるでしょう。言うまでもなく、これらの能力は走り込みでは一切身に着けることが出来ません。走り込みの練習量が増えれば増えるほど、ボールを触る時間が減っていることを意識しましょう。

また、試合中の疲労度についてもここで重要になります。試合終盤のオンプレーでイージーミスが増える原因を、体系的な有酸素性持久力の無さに起因させる指導者の方が多いからです。たしかにこのイージーミスは体系的な持久力の低下が原因の一つではあるかもしれませんが、果たしてそれは「有酸素性能力」のことなのでしょうか。

ここでまた、サッカーの競技性に立ち返って考える必要があります。サッカーは複雑性の高い競技です。その分、ストレスの種類も多岐にわたります。「サッカーにおける持久力」という言葉を使えば、それは単純な有酸素性運動による疲労物質の蓄積だけが原因ではないことは明確です。試合の経過に伴った精神的な疲労や(脳神経系の疲労)プレー中のダッシュ動作や方向転換などの特異的アクションによる主働筋、拮抗筋、共同筋間の結合の悪さも、疲労の原因として考えられるでしょう。

これらのサッカーにおける特異的な疲労は、走り込みでは改善されません。つまり走り込みは、「トレーニングの質」における「その競技にあったトレーニングであるか」を満たしていないという事も出来ます。強いて言うなら、断続的に行われるスプリント間の疲労回復能力は、有酸素性トレーニングで向上させても良いかもしれませんが、それならインターバルを取りながら小さなコートで高インテンシティのポゼッションをした方が、特異的でより複合的なトレーニングであると私は思います。これについても、個別性の原理に基づいて各選手ごとにアプローチの仕方を変える必要がありますが、チーム全体を走りこませるほど体系的持久力に問題がある場合は、チームの戦術自体を他のものにシフトした方が合理的かなとも思います。

まとめ

今までで一番長い記事になってしまいました。うまくまとまっているかは正直微妙ですが、要は「走り込みが絶対悪ではないけど、サッカーの競技性を考えれば、走り込みするよりも、効果的なトレーニングってたくさんあるよね、ずっと走ってるチームは本当によくわからないけど」という事が言いたかったわけです。

このブログを読んでくださっている皆様は、サッカーにおいて重要なのは長い距離を走ることではないという事を十分に理解されていると思います。しかし、多くの指導現場ではいまだに走り込むことでつく持久力が、「サッカーの持久力」であると考える指導者、あるいは、認知判断の能力やボールコントロールを放棄して運動量で誤魔化そうというスタンスのチームが多くあります。そんなわけで、これからも罰走とか走り込みに関するツイートはつづくと思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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